ごあいさつ

GREETING

初代 運営委員長 あいさつ 影山 太郎

人間を人間たらしめるもの — それは言語です。地球上の生物の中で、生後2~3年で複雑かつ高度な言語システムを自由に使えるようになるのは人間だけであり、言語を最大限に活用することによって人類は今日の社会と文明を築き上げることができました。言語は単なるコミュニケーションのツールではなく、思考、発想、創造力の源泉であり、人間そのものであると言って過言ではありません。そのような重要性にもかかわらず、言語そのものの抽象的な仕組みや、実社会における言語の使用実態、あるいは母語や外国語の習得過程といった基本的な事柄を研究することの意義は、残念ながら社会的にあまり認知されていません。しかし現代に生きる私たちは、言語という人類の財産を更に発展させて後世に伝えていく義務があります。

これまで、言語の研究は、個人研究者、あるいは研究者の集団である学会によって進められてきました。しかし地球規模での言語の危機が叫ばれている今日、言語の研究は個人や単一学会のレベルを超えて、更に大きなスケールで推進していくことが学問上の急務となっています。そのためには、関心や目的を共有する多くの言語系の学会が連携して、より高い水準の学術的研究を目指していくことが必要です。

このような学会相互の連携は、社会的な観点からも求められます。自然科学と比べると、一般社会に対する人文科学の発言力は極めて限られており、単体の学会では社会全体に浸透するような発言や提言は極めて困難です。言語に関する正しい知識と理解を一般社会に浸透させ、学術的な言語研究の重要性を発信していくためにも、多数の学会の協力が必須です。

このような認識のもと、このたび、日本学術会議 (言語・文学委員会) からの働きかけもあって、日本言語学会、日本語学会、日本英語学会、日本語教育学会、全国語学教育学会(JALT)(科研費分科細目順) の5学会を幹事学会とする《言語系学会連合》(英語名 The United Associations of Language Studies; UALS) が2010 年4月1日に発足しました。言語系学会連合には、上記5つの幹事学会のほか22 の学会から賛同を得て、現在のところ合計27学会が加盟しています (加盟全学会の名称はトップページをご覧ください)。

本学会連合は、「言語系学問およびその関連分野の調和ある発展を期し、加入学会独自の活動を尊重し支援しつつ加入学会間の連携を強化して、国際的協力関係を深めるとともに、社会的諸問題の解決への多面的な貢献」 を目的とするもので、具体的には次のような活動を行うことになっています (「言語系学会連合会則」)。

  1. 言語系分野における諸領域の連携・協力の推進
  2. 他の学問分野との連携による学術水準の向上
  3. 言語系分野における国際協力の強化
  4. 言語系学問にかかわる成果の普及および施策の提言
  5. その他、本学会連合の目的を実現するために必要な活動

しかしながら、発足当初からこれらの諸活動を総て実行にうつすことは現実的には難しいところがあります。これから数年間は、これら諸活動の中の一部分を手探りで実施し、また、できるだけ多くの活動が行えるような基盤整備を行うということになるでしょう。初年度は、(1)の具体化として、加盟諸学会のウェブサイトにリンクを張って各々の学会の会員が別の加盟学会にアクセスしやすくし、また、「学会行事カレンダー」 を掲載することで諸学会の大会開催についての情報を得やすくするといった基本的なことから始めます。(2)については、初年度は難しいかと思われますが、将来的には、複数の学会が共同でシンポジウム等を開催するといった複数学会連携型の活動が期待されます。

今日の社会情勢において、(4)の社会発信は学会に求められる重要事項のひとつです。その一環として、初年度は日本学術会議 (言語・文学委員会) との協力により、日本語の現状と将来について考える公開シンポジウムの開催を次のように企画しています。

公開シンポジウム (主催 日本学術会議および言語系学会連合)

日時
2010年9月19日(日)
会場
日本学術会議 講堂 (東京都港区六本木)
テーマ
日本語の将来

以上のように、本学会連合は、言語の研究および応用を目的とする諸学会が、各々の目標や活動を尊重しながらも、相互の連携・協力を通して学術的研究を高め、学問的成果の社会的普及に一層寄与しようとするものです。そのためには、加盟各学会の代表者だけでなく、会員のみなさま全員の自主的な参加と積極的な提案が不可欠です。

また、この活動を一層強力なものにするために、まだ加入されていない関連学会の加盟が強く望まれます。加入の受け付けは今後も続けていきますので、趣旨に賛同される関連諸学会のみなさまは是非、加入していただきたいと存じます。

これから言語系学会連合が言語に関係する全国諸学会の確固たる活動基盤となり、我が国における言語の研究と応用を飛躍的に発展させることができますよう、みなさまからの多大なご協力とご指導をよろしくお願い致します。

言語系学会連合 運営委員長
影山 太郎
(日本言語学会長、国立国語研究所長)

言語系学会連合 発足 祝辞  庄垣内 正弘

グローバル化は文明の複雑なシステムを整理し、地域や国境を越えて人間の交流を一層盛んにするが、一方で、国家間や地域間の競争を一層熾烈なものにする。学問の世界もその競争から免れることはできない。同一分野における学問的競争はむしろ本来あるべき姿と言えるが、分野間の競争に関してはそこに正当な判定基準の無い場合は不適当な結果を招くことになる。たとえば人文分野の研究が経済を中心とした競争には直接関与しないとの理由で軽んじられることがあるとすれば、それは人類の将来にとって大きな損失となるにちがいない。しかし昨今のとりわけ我が国の動向を見れば、人文分野が他の分野に比して軽視される傾向は益々強まっていると言える。言語は人間の営み全般に深く関与するもので、その研究の重要性は広く一般に認識されるものと信じたいが、やはり人文分野の一員であることに違いはない。

人文学研究は本来個々人が自由に行うものであって、徒党を組んで集団活動することに馴染まないところもある。
しかし、従来と同じ活動のあり方ではグローバル化の波に乗ることは難しい。むしろ波に呑み込まれて衰退する可能性が大きい。

この度、言語研究に係わる諸学会が集まって学会連合を結成し、学会間に共有の議論の場を設けられたことは時代に即した英断と言える。シマウマが円陣を組んで後ろ足を跳ね上げ、敵を追いやるような、面もあるが、言語研究の地球レベルでの競争にはとりわけ相応しい集団となりうる。

日本言語系学会連合の発足を祝賀するとともに、新組織が今の困難な時代を乗り越え、さらに次の時代へと日本の言語研究を無事引き渡されることを祈願します。

日本言語学会顧問・日本学術会議会員
庄垣内正弘

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